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2010年9月 8日 (水)

最近の新聞報道5

さて、いよいよ(?)日本学術会議の会長コメントについてである。
タメ息が出るほどガッカリ、情けない内容だ。

この団体は、過去、ノーベル賞受賞者などが名を連ねた由緒ある所なんだそうだが、このコメントをみると、本当に科学者なのか、科学的マインドを持っているのか、非常に疑わしい。

十分な研究もせず、非科学的であると完全否定し、「荒唐無稽である」とまで断言している。
そもそもこの態度からして、科学的な姿勢からは程遠いと私は思う。

コメントには、根拠として僅かに2つしか挙げていない。
このうち1つは、2005年に『ランセット』に掲載された、Shang によるメタ・アナリシスである。

過去には「ホメオパシーに治療効果がある」と主張する論文が出されたことがあります。しかし、その後の検証によりこれらの論文は誤りで、その効果はプラセボ(偽薬)と同じ、すなわち心理的な効果であり、治療としての有効性がないことが科学的に証明されています。
「ホメオパシー」についての会長談話より

このくだりが、Shang らの分析を参照しているわけだが、
これは、アンチ・ホメオパシーの人々が好んで取り上げるもので、この分析をもってホメオパシーは科学的に否定されたと言う人が実に多い。

もう1つは、英国下院技術委員会のレポートであるが、これも結局の所、Shang によるメタ・アナリシスを拠り所にしている。
レポートには、色々と御託が並べてあるが、要は現在の科学で扱いきれない話題であるため、最終的にはRCT(二重盲検法)による『どんぐりの背比べ』の結果で、臨床的に効果があるかを判断することになる(EBMでは、メタ・アナリシスが最上位にくる)ので、実は、根拠となっているのは、たった1つのみである。

繰り返そう。
たった1つのメタ・アナリシスを根拠に、ホメオパシーは科学的に効果が無いと断言しているのである。

どういう研究をし、どれだけの調査をし、その上で、どういったプロセスを経て、ホメオパシーは否定されたのかを全く明示せずに、荒唐無稽とまで断ずるこの姿勢こそ、科学者として荒唐無稽だと気づいていないのだろうか?

そして更に問題なのは、このメタ・アナリシスが、疑惑だらけのシロモノで、各方面から科学論文としての不備を指摘されているものなのである。
以下、その概要を述べよう。

まず、この研究のリサーチャー達を率いたProf. M. Eggersは、ホメオパシー敵対者(Antagonist to homeopathy )として有名。
ちなみに、ランセットの編集主任が認めたところでは、
「Prof. Eggers は最初から、ホメオパシーはプラシーボ以外の何物でもないことを証明できるだろうと表明していた」
・・・研究以前からバイアスが掛かっていて、「否定してやるぞ」と意気込んで取り組んでいるわけだ。

さて、メタ・アナリシスは、ホメオパシーと通常医学(西洋医学)それぞれ110の実験で、すべてプラシーボ(偽薬)を使った臨床実験である。
これらの中からハイ・クオリティーな科学調査としての条件を満たす実験を選んだ結果、ホメオパシー=21、通常医学=9の実験が評価の対象になった。
ええと・・・ホメの方が多かったんだよねぇ・・・ハイ・クオリティーな研究は・・・??どういうことなんだろうね。
彼らは、これらの実験についての分析を何も明かさず、どの実験がリストに含まれ、どの実験が除外されたのかさえ示していない。
科学者の間では、こうした態度は非常に疑問視され、程度の低い研究とみなされるそうな。

代わりに彼らは、21の実験のうち被験者の数が多い8つの大規模実験だけを分析・評価した(通常医学の実験は6つ)。
ホメオパシーの大規模実験に関しては、患者の個性に合わせたホメオパシー的な治療ではなく、ある疾患や症状に特定のレメディという形の実験(One-medicine-fits-all approach)。
つまり、ホメオパシーの方法論から考えると、失敗する可能性の高い実験。
ただ、これを言っても、通常医学側はいつも聞き入れないんだね。こうした時、『観察の理論負荷性』と『通約不可能性』という言葉が頭に浮かぶ。

それはさておき、Shang たちの研究については、さらに、

  1. いくつかのハイ・クオリティーなホメオパシーの実験が除外されている(偶然かどうか、これらの実験の大多数がホメオパシーは効果ありという結果)、
  2. ハイ・クオリティーの定義には疑問の余地がある(彼らは、どのような実験がハイ・クオリティーなのかについてさえ報告していない)、
  3. さらに、全てのハイ・クオリティーな実験を評価もしくは比較しないで、その内のいくつかのみを対象とする決断したこと

・・・などが批判されていて、ホメオパシー21件と通常医学9件の実験の抽出・選択において、大変な不確実性が見られ、選択の基準が恣意的だと批判されているのである。

最終的に分析の対象となったハイ・クオリティーな大規模実験の選択は、(本来ランダムに選択されるべきところ)事後的なものであり、事前に設定された基準にもとづいて選択されたものではないのではないか・・・?

つまり、ここで疑問視されているのは、大規模実験に限定されたのは、当初のプロトコルに従った結果なのか、それとも、自分たちが導き出したい結論に都合の良いデータにプロトコルの方を合わせたのかということ。

しかしもし(百歩譲って)、これが当初設定さたプロトコルによって選択・抽出されたのだとしても、依然として彼らの解釈に問題が残る。
8つのホメの実験ではオッズ比は0.88(1より小さいと効果的な介入とされる。プラシーボ効果ではないということ)、6つの通常医学の実験では0.58である。
彼らの歪んだ、あるいは恣意的なデータ抽出によってさえも、本当は効果が認められるということなのだ。

しかし彼らの解釈はどうだったか?「ホメオパシーはプラシーボに過ぎない」であった。
これは正しくは、
『どちらもプラシーボ以上の効果があったが、通常医学の方がより効果が高かった』
とすべきなのである。

このことに関しては、2008年に、R. Ludtke とRutten らによって検証された Review が発表された。これは、Shang の研究でハイクオリティーと評価された21と9のデータを使って再解釈したものであり、Shang のメタ・アナリシスは、かなりバイアスが掛かっていると指摘している。

さらに、Rutten、Stolper、Spence、Reilly、Nicolaiによって、「ホメオパシーの反証は、実際にはホメオパシーを支持している」とするレポート が発表され、様々な観点からShang のメタ・アナリシスは虚偽の結論であり、これを掲載したランセットの行為を批判している。

その他にも、Shang によるメタ・アナリシスに関しては多くの論点があり、D. ReillyE. Schuster 、Dana Ullman("Homeopathy Family Medicine")らが分析をまとめている。
私の記事は、それらの中から重要と思われる部分だけを抽出したものである。
詳しくは原文を参照して欲しい。

こういうことを書くと、ホメオパシーの支持者が分析・解釈したなら、ホメオパシーに好意的・恣意的な解釈になるんだろうと言う人が必ず出てくる。
通常医学を支持する人が、ホメオパシーのデータを批判的に観るのは当たり前。
逆もまたしかりで、ホメオパシーを支持する人がホメに肯定的に解釈するのは当たり前。
しかし頭に入れておかなければいけないのは、全てのデータがホメオパシーを否定しているわけではないということ。そして、ホメオパシーの効果を示す実験は、一般の人が想像する以上にたくさんあるということ。
更に言うなら、通常医学に関する全てのデータが、通常医学に肯定的というわけではないし、効果があっても副作用も強くて使い物にならないものもあるわけだ。

中立的な態度を持った人は、ホメオパシーは今のところ否定も肯定も出来ないと言明する。
本当に科学的な態度を持った人というのは、「科学ではこれこれ、ここまで分かっているが、これ以上はまだ分かっていない」という答え方をするものだと、どこかで高名な科学者が言っていた。

私がこの記事において何度も強調したいことは、彼らが根拠としているメタ・アナリシスに対する批判も考慮に入れて評価をしたのかということ。
ランセットに載ったからと盲目的に信用していたのではないのか?
仮に様々な要素を考慮に入れたとしても、その分析プロセスを明示せず、「荒唐無稽」と断じることが、本当に科学的な態度なのかということである。

それは単に、あり得ない、信じられないという程度の幼稚な主観(本当の意味での客観は存在しないのだが)、というよりも自らの信念(パラダイム)を妄信して押し付けているだけではないのか?
(まあ、異なるパラダイム間の論争っていうのは、突き詰めれば信念対立になるのだけどね。)

僅か1つ2つの、権威ある学術誌に掲載された論文だけを拠り所にして、しかもその結果を鵜呑みにして攻撃(口撃)をする行為って、単なる権威主義ないしは権威に弱いだけなんじゃないの?(権威側にいる者が、そういう行為に出るのが世の常か・・・)

新しい発見というのは、そういうのを打ち破って未知の事柄に取り組み、(しかもワクワクしながら)成し遂げる姿勢から生まれるのではないかと私は思うのだが、科学者ってそういう人じゃないのかな・・・

『プラシーボ効果』にしても、随分安易に使うけど、「それはプラシーボ効果に過ぎない」というのは、本当に科学的な言明であるのか、よく考えてみるといい。

まあ、それはいいや(プラシーボの事は改めて書きます)。
とにかく私が言いたいのは、科学的云々を論じるなら、科学的なマナーに則って行動しなさいということ。

今回のようなコメント発表は、その断定ぶりに加えて、即座に医師会などが賛同の意を示したあたり、少なからずある種の悪意を感じる。
こうした、いわば封じ込めを図るような行為に出るのは、利害絡みじゃないかと勘ぐりたくもなる。

しかも、聞く所によると、ホメオパシーを医療の場から排除せよと言っておきながら、ホメオパシーを推進している医師の団体に対しては、特にお咎めはないのだとか。
このことの真偽はどうあれ、
本当にホメオパシーが科学的に効果が無いとするなら・・・少なくともそう主張するなら、国家資格を持った医師に、社会医療システムを担う者として、ホメオパシーを使わせることの方が大きな問題だろう。

おかしな事だらけなのである。困ったもんだ・・・

上に述べたホメオパシーを推進している医師の団体の新聞でのコメントが、これまたおかしいよね。
それは、次回に。

(どこまでつづくのかな・・・)

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コメント

私としては単純に、その批判している論文やレポートよりも信頼できる研究を、ホメオパシー推進側がすれば良いと思うのですが。
ホメオパシーについて注目していますが、署名活動などズレたことばかり目につくんですよね。
必要なのは効果の検証でしょうに。

http://enju3946.blog65.fc2.com/blog-entry-726.html

crying
ありがとうございます。
すごくわかりやすかったです!
反論以外の論文、読んでみます!!!

保成さんは、話をすり替えていますね。この記事の主張は「依然として彼らの解釈に問題が残る」ということであって、つまり白を黒と言い換えているのではないかということです。

効果の検証は何れにせよやればいいことです。ただ、今のところ唯一(と記事ではしている)であるランセットの論文の結果にバイアスがかかっていては意味がないということでしょう。そんな所にまた論文を提出しても、批判者側に有利な論文によって上書きされたら余計タチが悪いですから。

ランセットの信頼性にも関わる問題ですから、この問題には真っ向から取り組むべきです。

ランセットにはホメオパシーに効果があるとする論文も掲載されたことはご存じないのですか?
陰謀論を言い出すとキリがないですよ。
またバイアスというのなら、、2005年のランセットの論文にどのようなバイアスがかかっていたのか教えていただけますか?

そうそう、こちらを参考にさせてもらって、バイアスについてもQ&Aに加えておきました。

http://enju3946.blog65.fc2.com/blog-entry-726.html

Samさんの主張を裏付ける意見が出てきましたね。

http://togetter.com/li/54303
>> Lancetの論文、実際に読んでみましたが、結論は「メタアナリシスの結果は、ホメオパシーがプラセボ同様の効果しか持たないという仮説と両立する」という慎重なもの。積極的に「プラセボ以上の効果はない」と言っているわけではない。プラセボとホメオパシーを比較してきちんとダブルブラインドになっている治験が110件あった。その大半で、オッズ比は1以下となった、つまり効果がある、という結論が出ていた。しかし…

と、結局は有意の結果が出ているとは言えない、というあたりのびみょーな表現ですが、Lancetの論文でなぜ「ホメはプラセボ」と言い切っていないのか、きちんと書いています。自分は、いまの科学ならホメのような繊細なものでもそれなりの結果がでるだろうと思っていたので、このどっちつかずの評価は現時点では注目すべきと思います。

Purpleさん

コメントありがとうございます。
多少なりとも冷静に分析・検討できる人がいるのは喜ばしいことですねconfident

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